第七回 「バニョール」

 フランス国内には、エビアンやコントレックスのような鉱泉治療施設を持つ“水の町”がじつに104カ所もありますが、そのすべてが大規模な観光地というわけではありません。中には日本の温泉地を思わせるひなびた湯治場も少なくないのです。

 この「バニョール」という、ノルマンディー地方にある小さな“水の町”は、日本ではほとんど知られていません。しかし、フランス国内では古くからの保養地として有名です。今でも、年間1万5千人ほどの湯治客が訪れ、それぞれ数週間から数カ月もの長期にわたってこの地に滞在します。そして、その湯治客の80パーセント以上が50歳以上の中高年層といいますから、まさに日本の東北あたりの古い温泉地を連想させます。

 
オーベルジュ  名産品のりんご

 

 ただし日本の温泉地とここが決定的に違うのは、居並ぶホテルや長期滞在用の宿泊施設が実におしゃれで洗練されていること。中には一流シェフが経営するオーベルジュ形式のホテルまであり、狩猟が解禁となる秋のシーズンには、野ガモやキジ、イノシシ、シカといったジビエ(野禽)料理に舌鼓を打つこともできます。こうした優雅さはやはりフランスならではでしょう。

 この町の歴史は遠く12世紀前後にまで遡ります。「十字軍の遠征に参加したノルマンディーの伯爵であるコント・ド・テッセという人物が、戦いで傷ついた愛馬を森で放したところ、なんと数週間後に元気な姿になって戻ってきたので、不思議に思い、再び馬を放してその後を追うと、馬は森の奥に湧く泉の水を飲んでいた」という伝説がその起源なのだそうです。もしこれが事実なら、この「バニョール」の泉は900年近い歴史を持っていることになります。

 この町へ行くには、まずパリの「モンパルナス」駅から「グランビル」行きの電車に乗り、約2時間の「プリユーズ」という駅で下車します。そしてここからさらに国鉄バスに乗り換えて40分、ようやく「バニョール」の町に到着します。いささか不便ですが、それがいかにも秘湯探訪気分を盛り上げてくれます。

 バニョールの水には大きな特徴があります。それはpH(ペーハー=水素イオン指数)が4.5という弱酸性の水であることです。多くのミネラルウォーターはpH6〜8くらいが普通ですから、この水がいかに酸性に傾いているかがわかります。酸性の水は殺菌効果が高く、また肌の鬱血を鎮める効果があるため、この水はずっと各種の皮膚病や痔の治療に用いられてきました。

 
痔の治療器  ジェットバス

 

そして最近の研究によれば、この水には銅、マンガン、亜鉛といった鉱物性元素やラドンなどの放射性元素も、ごく微量ではありますが含まれており、その微量元素がホルモン分泌を正常にする働きがあるそうです。


鉱泉治療センター


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